導入事例

慢性的な技能者不足が叫ばれる建設業界ですが、今後も多くの建設現場において技能者不足の加速が危惧されています。そうした昨今の建設業界の課題を背景に、戸田建設様ではICTを活用し、より生産性が高く、魅力的な現場運営の実現に積極的に取り組んでいます。その取り組みの一環として、2024年７月に全国より数箇所の現場を選定し、技能者に対しインセンティブを与えるために、ポイントを付与することができるビルダーズポイントの試験導入を行いました。そのひとつに選定された、名古屋市内に位置する多目的ホールを施工する現場（以下、「同現場」といいます）では、現場で開催されるイベントと組み合わせた活用を計画し、現場運営の活性化に役立てました。

技能者が自由に利用できるインセンティブとして
ビルダーズポイントの試行を決定

同社ではそれぞれの現場において、安全意識の向上や安全対策の徹底を目的とした安全大会が開催されています。安全大会では、安全教育や講話などが行われますが、現場運営に特に貢献した協力会社や技能者に対して表彰が行われることもあります。その際、表彰された協力会社や技能者への報奨として景品やQUOカードを贈呈している事例があります。そういった技能者への還元について、同現場の作業所長を務めた坪井氏は次のように振り返ります。
「これまで技能者の方々の評価に紐づけて還元する方法として、私が過去に担当した現場ではQUOカードを贈呈していました。しかしながら、渡す側はカード購入などの事務処理の手間が発生し、もらう側は利用用途が制限されてしまうなど、少々不便な部分があったように思います。QUOカードを贈呈する以外の方法で、建設現場での様々な活動において積極的に取り組んでくださる方を評価する仕組みができないかと、以前より考えていました。」

技能者のモチベーション向上策を思案する最中、2024年6月に本社よりビルダーズポイントの試験導入について協力依頼があったといいます。
「ちょうど7月ごろから技能者の入場が増えるタイミングでしたので、試行するには良いタイミングだったことを覚えています。また、ビルダーズポイントのサービス内容について説明があった際、QUOカードよりも利便性の高い運用ができるのではないかと期待を持ちました。」（坪井氏）

「ビルダーズポイントであれば、PayPayマネーライトにポイントを交換でき、好きなものを購入できるので、技能者のモチベーション向上が期待できるサービスではないかと考えました。技能者の方は税の申告が必要にはなりますが、QUOカードでは利用できる場面に少なからず制限がかかる一方、ビルダーズポイントは自由にポイントを使うことができる点がメリットであると感じました。」（坪井氏）

ポイント付与によって技能者の行動を促すことに成功

建設現場でのビルダーズポイントの活用方法は、「建設キャリアアップシステム」（以下、「CCUS」といいます）と関連づけた活用をはじめ多岐にわたります。同現場では、BANKEN FACE（※）による顔認証での入退場管理を徹底しており、CCUSのタッチ率（就業履歴登録率）が元々高い水準であったことから、CCUSと関連づけたビルダーズポイントの活用は行わず、安全意識向上を目的とした活動や健康意識強化のための運動習慣の促進活動に関連づけたイベントを中心にビルダーズポイントを活用しました。
「元々、全国労働衛生週間にイベントを開催したいと考えていました。その矢先に管理部建築管理グループの戸田からのアイデアをきっかけに、ビルダーズポイントを活用し、安全や健康への意識向上を目的としたイベントを行い、ポイントを付与することにしました。例えば、『家族健康の日』と題したイベントでは、技能者の方に歩数を報告してもらうためのWEBフォームを用意し、その期間の歩数を報告することで○ポイント、8000歩以上歩いた人には○ポイントなど、参加してくれた人に少量ながらもポイントを付与するイベントを行いました。」（坪井氏）

イベントを開催する際の告知方法について次のように付け加えます。「ビルダーズポイントの告知については毎日の朝礼の際に一斉に伝えています。また、現場に設置している大型のモニターに資料を投影して、多くの技能者の目に留まるように工夫をしました。」（坪井氏）

坪井氏はビルダーズポイントのアプリ登録を促す際に苦慮した点について、次のように述べます。
「当初、現場でビルダーズポイントの話をした際にPayPayを利用している技能者は全体の1割程度しかいませんでした。ですので、ほとんどの技能者が電子マネー自体を利用していないところからスタートしました。それでも、事前に職長に資料を配付し、昼礼にてモニターに資料を投影しながら登録手順を説明するといった登録会を開催し、さらにアプリを登録したら○ポイントを付与するといったキャンペーンを行うことで多くの技能者がアプリを登録してくれました。幸いなことに、登録会ではアプリの初期登録がうまくできない、操作がわからないといった声はあまり聞きませんでした。」

ビルダーズポイントを試行したことで得られた効果について、戸田氏は以下のような所感を受けたと述べます。
「実際にポイントをPayPayに交換して何かを購入したかどうかまでは確認できていないのですが、もらったポイントを娘さんにあげたという声を耳にしました。また、技能者さんに対しビルダーズポイントの利用に関するアンケートを行った結果、技能者さんからは『ポイントをもらえることでやる気が出た』といった感想をいただきました。なかには『仕事で使えるグッズを購入できた』と書いてくださった方もいらっしゃいます。その他には、YouTubeで安全衛生教育の動画を視聴し、気づいたことや周りに呼びかけたいことをアンケートで回答してくれた技能者さんに対してポイントを付与するイベントを行いました。技能者さんとしては、こうした自習のような自発的要素の強い取り組みを行うよりも、自分の仕事を少しでも進めたいという気持ちが強いと思います。それにも関わらず動画を視聴してくれた方は、ほとんどがビルダーズポイントの登録者でした。元請側と技能者側にモチベーションの差がある行動をポイント付与対象としたことが、技能者の自発的な行動につながったのではないかと考えています。」（戸田氏）

規模に沿った運用の検討が必要と感じるも
熱中症対策などの重点施策への活用に期待

坪井氏は、検討したものの実施に至らなかった施策として、熱中症対策を例に挙げて説明します。
「夏場の暑い時期にポイントを配付して、現場の自動販売機でスポーツドリンクなどの飲み物を買ってもらうといったような、熱中症対策を目的としたイベントを開催してみたかったですね。次の夏にはぜひ企画してみたいと思います。」
ビルダーズポイントでは技能者を指定した個人へのポイント付与だけでなく、音波を利用し、集団に対し一斉にポイント付与を行うことも可能です。音波によるポイント付与機能の活用について、戸田氏は以下のように述べました。
「音波でのポイント付与は、例えば、現場に入場する技能者の9割程度がアプリの登録が完了している状況で、大きなイベントを開催するのであれば大いに活用できると思います。毎日200～300人の技能者が入場するような大規模現場であれば、音波機能を利用することでビルダーズポイントを活用する幅がさらに広がるのではないかと思います。」

ビルダーズポイントの活用による現場の活性化
建設現場の魅力向上に期待

最後に、坪井氏は今後の期待とともにビルダーズポイントに対する所感について総括しました。
「建設業界としてビルダーズポイントの普及が広がると、さらにサービスは使いやすくなるのではと思います。技能者の方々へ最初の登録を促すことは大変ですが、多くの人が登録してくれていればそれだけ本運用開始までの手間が省けます。今回実現できなかった施策も多くあるので、可能であれば今後別の現場でもビルダーズポイントを利用した新たな施策をやってみたいと思っています。やはり建設業界は人手不足がこれからも続いていくと考えており、処遇改善などの対策を打つ必要があります。その一環として、当社では優良技能者手当制度がありますが、それ以外の技能者の方々にも何かインセンティブを与えられると、さらに良くなるのではないかと思います。ポイントが欲しいから戸田建設の現場に行きたいと言っても、実際に行かせてもらえるものではありません。ただ、そういう風に戸田建設の建設現場を良く思ってくださる人が少しでも増えるといいなと思います。」